十中八九、俺が会計を済ませてしまうことを橘に相談して、解決法を教わったのだろう。
あいつからしたら、自分の嫁が、他の男に金を払われることはあまり好ましくない事態なのかもしれない。
すこし、橘遼雅という男が人間らしく見えてしまうから、柚葉の魔性っぷりはすごい。
「よし! 行こう」
きっちりと支払いを終えられた満足感からか、いつも以上に表情が緩みきっている。遠慮なく頬を抓ってやったら、条件反射のように柚葉が背筋をただした。
「ブス?」
「かわいいんじゃね」
「えっ……」
絶句した幼馴染を笑って、勝手に歩き出す。
あくまでも柚葉がついて来られる速度を保ってしまう俺は、学さんに言われた通り、諦めて隣に柚葉が入り込める余地を残し続けて歩くことにしよう。
初恋は、わりと、いや、かなり大事な思い出だ。
「ゆず、はやく行くぞ」
「ええ、あ、うん! まって」
慌ててかわいい顔になる柚葉を横から盗み見て、がんじがらめの初恋が、きれいにほどけていくような感覚があった。
「そうくんは、たまに褒めてくるから、ずるいね」
「ああ?」
「だって、かっこいいのに、ますますかっこいいもん。絶対魔性の男の子だよ」


