あれよあれよと社内全体に知れ渡って、今では朝も一緒に出勤してくる姿を目撃されている。
あれだけ表情を動かさないことに定評のあった佐藤柚葉は、とっくにかわいい人妻として噂されるようになってしまった。
専務の役員室にわざわざ行けるような用事を作ろうと必死になる人間が現れるほどだ。
普段、屈強なセキュリティをかけられた部屋で二人がどう過ごしているのかは、よく飲み会のネタにされている。
「最近は変なことに巻き込まれてねえか?」
「うん? 大丈夫だよ」
「そうか」
「ありがとう」
渡のことは、かなり前からいけ好かないやつだと思っていた。
あきらかに柚葉に対してだけ指導が厳しすぎる。パワハラの気があると思って何度か柚葉に話していたが、意外に頑固な柚葉が「認めてもらえるようにがんばる」と立ち上がったのを見て、手を出しあぐねていた。
案の定、あいつは柚葉を舐めまわすように見ていた。
「まあ、橘がいるうちは心配ねえな」
すこしも容赦しなかった。
一度目の告発の時点で、橘遼雅は解雇処分を考えていたのだろう。入念な書類に署名させて、何か一つでも契約違反を起こせば、即刻摘まみだす気でいたはずだ。


