「ほら、早く戻れ」
「う」
「愛しの旦那が待ってる」
「ふぁい」
ぱっと手を離したら、上目遣いの柚葉がまるく笑った。
「その顔、マジでブス」
「ひどい」
「うそだよ、すげえきれいだ」
「うん? 今なんて言ったの?」
「なんでもねえよ、ほらいけ」
うそだよ、とつぶやいた声は、小さすぎて聴きとられなかった。不可思議そうな柚葉は、またかわいらしく首をかしげて笑っていた。
「じゃあ、あとでね」
「おー」
何度もちらちら見ながら、歩いては手を振っている。ばかかわいい姿にやられて、しばらく放心していた。
「かわいいかよ、くそ」
披露宴では、完璧に微笑む橘遼雅の隣で、ひらすら笑顔を浮かべていた。
ときおり横から男に声をかけられて、たのしそうにしているから、柚葉自身も、相手に悪い感情を持っているわけではないことが分かる。
柚葉の父は終始泣きっぱなしで、佐藤家の女性陣は朗らかに笑っていた。
橘涼子は一眼を抱えて、永遠に柚葉の写真を撮っていた。これは、かなり気に入られてしまっていそうだ。
どんなに写真を撮られてもすこし気恥ずかしそうに笑って、嫌な顔をしないところが柚葉らしい。
横から柚葉を眺める橘遼雅の瞳は、あきらかに惚れた女を見つめる男のものだった。
柚葉はそういう顔を向けられる機会が多いくせに、判別できないらしいからアホだった。


