柚葉の髪を撫でるのが好きだった。
いつも、気持ちがよさそうに頬を緩ませるから、その表情が好きで、撫でまわしていたのだと気づいた。きれいにまとめられた髪に、あげかけた手を下ろしてポケットの中に引き込む。
もう、俺が側にいる必要はない。
まぶしいくらいに笑っている柚葉は、他の誰かのものになる。よくわかっているのかいないのか、柚葉はあくまでもいつも通りに笑っていた。
きっと、もう柚葉が俺の横で泣きわめくことはないだろう。あまり泣かなかった柚葉がびえびえ泣くようになってしまったのは、俺が原因だと思う。
素直になれずに、暴言ばかり吐いてしまった。
柚葉ははじめのうち、俺の言葉を聞くたびに泣いて、そのくせに俺の服の裾をじっと掴んでいた。たぶん、そのときに恋を自覚したのだと思う。
「橘は?」
「あ、うん。控室にいると思う」
「はやく戻ってやれ」
「え、もう!?」
本当に、一番に見せに来てくれたんだろう。それならもういい。
バカみたいな声が出そうで、呑み込んでしまった。
「わざわざ見せに来なくていいっての」
「へへ、ごめんね。小さいころ、約束したから」
「んだよそれ。夢でも見たんじゃねえの? ボケ」


