朝のスケジュール確認が終われば、基本的に忙しい橘専務はすぐに会議か外勤に出てしまう。
今日も、朝にも見た秋もののコートを羽織って、小さく笑みを浮かべてから「行ってきます」と声をあげて部屋から出て行ってしまった。
どんなに急いでいたとしても、相手を蔑ろにすることのない人だ。そういうところに好感を持っている。
専務から頼まれている業務は朝のうちに終わらせてしまって、他の部署から頼まれている調整作業と内部資料作成に取り掛かっていた。
いくらこなしても無限に仕事がわいてくるから不思議だと思う。
特に他部署を横断してスケジューリングするものや、意見集約をして作成する書類は時間と根気強さが必要になる。
私の残業理由の大まかな作業がこの辺の業務になっているのだけれど、なかなかわかりにくい地味な仕事だ。橘専務の帰りが遅い日には、帰社を待つまでの作業になり得るけれど、そうではないときには一人で残って仕事をすることにもなる。
最近は、遼雅さんよりも遅くに自宅に帰ると、業務量が多すぎるのではと本気で心配をされるから、とにかく必死で定時までに終わらせることに注力していた。
ふ、と流れてきた音に手を止めて、顔をあげる。
「……おかえりなさい」
「戻りました」


