かわいい脱走に頬が勝手に笑んで、ベッドをおりる後ろ姿に一人笑ってしまった。
「逃げる場所、もうないのにな」
ぽつりと出た声を、柚葉は聞いていない。
結局は俺にきちんと食事をとってほしいとか、ゆっくり休んでほしいとか、そういう理由で断られてしまうことを知っている。
甘いため息とともに立ち上がって、寝室を後にした。
柚葉は洗面所にいるだろう。想像しながら足を向けて、歯を磨き終えたらしい、かわいいつまと目が合った。
「困らせて、ごめんね」
柚葉の父のように哀愁たっぷりに囁いてみせる。
柚葉がそれに弱いらしいことは、すぐにわかってしまっていた。かわいい。柚葉はやさしい女の子だから、すぐに騙される。
「……こまったんじゃな、くて……、だって、遼雅さん、ゆっくり休んでほしいんです」
「うん」
「美味しいご飯、つくれるように頑張ります」
「ありがとう、愛してるよ」
「あ、う……」
それ、俺以外に絶対やらないでよ。
声に出さずに唇に触れて、音を鳴らして離れる。ミントの香りが鼻腔に触れた。
「ご飯、俺が作るよ」
「ええ?」
「昨日も無理させたから。……柚葉はソファでゆっくりしてて」
「え、やだ。だめです」


