「ゆずは」
呼びかければ、酸欠のせいか、すこし潤んでしまった瞳で俺を見上げてくれる。
どうしてこんなにも無防備なのか、いまだに不思議だと思う。それと同じくらい、俺の心を許しているのだと実感できるからたまらない。
「なん、ですか?」
「かわいい、すきだ」
「……ねぼけてま、す?」
そんなはずがないことはわかっているだろう。
言えば言うだけ柚葉はしどろもどろになって、瞳を揺らしてしまう。その瞳を見つめているのがすきだ。
「はは、寝ぼけてるように見えますか?」
「……みえないです」
「寝ても覚めても、きみばかりを見ています」
「うん?」
「柚葉に夢中だってこと」
頬の皮膚をやわくなぞって、隠すことなく告げる。
この世で一番ほしいものを腕の中に抱き込んでいる。
結局、すべてが淺野一族の思い通りに納まってしまったことを理解していても、どうでもいいと思えるからおかしい。
柚葉と結婚すると告げたら、淺野はこれでもかと目を見開いて吃驚していた。
自分で整えておいて、あの反応はないだろう。「お前、人を好きになるのか?」という淺野の声が、柚葉の微笑みに砕けて消えていく。


