丁寧に囁いた人が、ちらりとこちらに視線を向けてくる。その目に同じようにうなずいてみれば、先輩には「もう~、あと2週間頑張らせてください」と笑われてしまった。
膨らんだお腹は歩くのも大変そうだ。
重心が変わることで、外股歩きしかできなくなってしまったと言っていた。最近はマキシ丈のゆるいワンピースを着るようにしているらしい。
来客対応はもっぱら私がすることになっていて、お客さんとして稀に現れるイケメンを見ることをひそかな楽しみとしていた先輩としては、すこし物足りない勤務が続いていると言っていた。
真顔の私と橘専務が初めて顔を合わせた時にもうまくやることができたのは、間違いなくこの気さくな青木先輩のおかげで、そういう意味では私と橘専務の仲人の一人とも言えるかもしれない。
遼雅さんは、青木先輩にこの結婚のことをお話しできないことについて、非常に残念そうにしていた。私から見ても2人の息はぴったりだ。
「まあ、私も橘専務と佐藤さんなら、ばっちり、息ぴったりでやっていけるだろうと思いますけど。……専務~、佐藤さんが可愛いからって、誑かしたらダメですよ?」
「あはは、セクハラには気を付けます」
さすがの橘専務も苦笑いだ。


