「きみはキスしてくれないですか」
求めるだけでなく求められたいと思い始めた瞬間に、この感情が、抑えの利かないところまで来ていることを実感した。
ここまで強烈に、手元に置いておきたい欲求に駆られたことがない。自分自身が何度かぶつけられた執着に似ている気さえしていた。
「我慢するから。ご褒美に、柚葉からのキス、ほしいです」
「そうしたら、きす、もうしない?」
「柚葉が嫌なら、しないよ」
乱れた髪を耳にかけて、くすぐったそうにしている瞳に囁く。
執拗に迫られていたものを拒絶するとき、相手から「嫌ならしない」と言われると、嫌なわけじゃないと控えめに返したくなることを知っている。
「……いや、では、ないです」
想像通りの言葉で、胸の内が撫でられてしまった。
どうしてこうもかわいいのか。不安になるほどだ。義理の父が言っていた言葉の意味が思い返されてしまう。
たしかに、つねに不安がある。
じっと見つめていれば、狼狽えた様子の柚葉がゆっくりと顔を近づけてくれる。
本当にしてくれるのか、と驚いているうちに、唇にやわい熱が触れた。
簡単に解ける魔法のように離れて、すぐ近くで、伺い見てくる。その瞳のあまさで、今すぐにすべてを暴きたくなってしまった。
堪えて柚葉の身体を抱きなおした。


