「はは、そうでもないです。柚葉さんに嫌われないよう、必死ですよ」
「うん、それはわかる。僕はずっとそう。かわいい女性がそばにいると、ずっと不安だから、きみも肝に銘じたほうが良いよ。つねに全力で愛すること」
柚葉の父が、キッチンに立っている女性をつよく慕うような瞳で眺めて、もう一度俺を見据えた。
佐藤家の女性陣は、どこか人を惹きつける匂いが備わっているのかもしれない。
これから幾度となく柚葉の行動に感情を揺さぶられるだろうことを予感しつつ、その男と同じように笑った。
「良い教えを聞きました。ありがとうございます」
「柚葉を頼みます」
「はい。全力で、愛します」
「すでに頼もしい……」
「はは、まだまだです。お義父さんを見習って、精いっぱい大事にします」
「かっこいいなあ」
「お義父さんの講義も、ぜひ聴かせてください」
「え、うれしいな」
「柚葉さんが見てきたすべて、私も見てみたいです。全力で愛するためにも」
「りょ、遼雅さん!」
真剣に頷いたら、たまらず横から腕を引かれた。
そのかわいらしい気の引き方に、頬が緩みかけて振り向く。上目遣いの柚葉が、こまった顔をして、瞳を揺らしていた。


