結局言われた通りに会社のエントランスについてすぐに連絡を送ることになってしまった。
遼雅さんからは、15分前に連絡が来ていた。
歩くのがとても速いと思う。私の隣で歩いてくれているときにはすこしも感じさせないから、やっぱり紳士的な人なのだと再確認してしまう瞬間だ。
秘書課にたどり着いてからの初めの仕事は、先輩と一緒に橘専務個人の役員室へと挨拶をしに行くことだ。
これは役員を担当している秘書なら全員が朝、必ず行っていることだった。顔を見せて、一日のスケジュールを確認する。
社長の秘書はあちこちに同行することが多いが、橘専務は比較的秘書を伴わずに外勤していることが多い。
正直、そこまで付き合っていると賄いきれないくらいの仕事に追われているから先輩は「理解があって助かる」といつも顔をほころばせていた。
ノックして入室すれば、すでに資料を手に取りながら、こちらに向けて柔らかく微笑んでいる橘専務が見えた。
先輩と同じく頭を下げて、立ち上がった専務にすぐにソファへ着席するように促される。
「青木さん、体に障ると良くないですから、すぐに掛けてください」
「ははは、ありがとうございます。すこしは運動しなくちゃいけないですし、気にしなくていいんですよ」
「産休まであと2週間ですよね。つらい時はすぐにお休みしてください。幸い佐藤さんもものすごく優秀な方ですし、私もたすかっています。無理はしないでください」


