柚葉の父は大学教員で、著名な研究者だと聞いている。
家にいるときは本を読んでいるかパソコンに向き合っているか。はたまた母親の顔を見てにこにこしているかのうちの、どれかしかしていないと言っていた。
温厚そうな瞳が、柚葉の、のんびりした危機感のない瞳に似て見える。
「柚……」
「お、とうさん……、えっと……、紹介、するね」
「聞きたくない……」
悲壮感たっぷりで、柚葉が声に詰まってしまった。
二人の掛け合いに、母と姉がまた笑いをこらえている。おそらく萌さんの結婚報告のときにも同じようなやり取りをしたのだろう。簡単に察せてしまった。
「橘遼雅と申します。柚葉さんには、会社で部下としてつねに支えていただいていました。やさしい人柄に触れて、私から交際を申し込みました」
「うっ……」
「今日は柚葉さんとの婚姻を認めたいただきたく、まいりました。突然の訪問で申し訳ありません」
簡潔に告げて頭を下げれば、狼狽えたような声が鼓膜に擦れた。間違いなく、柚葉は父似だろう。
下げた頭をあげてまっすぐに見つめれば、すっかり眉が下がった男性が、ちらりとこちらを見て、また目をそらした。
この調子で、大学ではどうやって授業をしているのだろう。些か不安になるほどに怯えられてしまった。
家にいるときは本を読んでいるかパソコンに向き合っているか。はたまた母親の顔を見てにこにこしているかのうちの、どれかしかしていないと言っていた。
温厚そうな瞳が、柚葉の、のんびりした危機感のない瞳に似て見える。
「柚……」
「お、とうさん……、えっと……、紹介、するね」
「聞きたくない……」
悲壮感たっぷりで、柚葉が声に詰まってしまった。
二人の掛け合いに、母と姉がまた笑いをこらえている。おそらく萌さんの結婚報告のときにも同じようなやり取りをしたのだろう。簡単に察せてしまった。
「橘遼雅と申します。柚葉さんには、会社で部下としてつねに支えていただいていました。やさしい人柄に触れて、私から交際を申し込みました」
「うっ……」
「今日は柚葉さんとの婚姻を認めたいただきたく、まいりました。突然の訪問で申し訳ありません」
簡潔に告げて頭を下げれば、狼狽えたような声が鼓膜に擦れた。間違いなく、柚葉は父似だろう。
下げた頭をあげてまっすぐに見つめれば、すっかり眉が下がった男性が、ちらりとこちらを見て、また目をそらした。
この調子で、大学ではどうやって授業をしているのだろう。些か不安になるほどに怯えられてしまった。


