奥のソファに座っている眼鏡の男性は狼狽えているという言葉を体で表現するような姿勢で、ここでもまた緊張感をすべて崩されてしまった。
「遼雅さんと柚はそっちに座ってね」
にこにこと笑って、ティーカップをソファの前のテーブルに置かれた。その場に座れということだろう。
指示に従って柚葉と二人掛けのソファに座る。真正面から見る柚葉の父は、ちらりと俺と目を合わせると、1秒も経たないうちに目をそらしてしまった。
「お父さん、端に寄って。お母さんも座るから」
「ああ、うん」
三人掛けのソファに柚葉の両親が座って俺たちと対面し、横から姉が、にこにこしながら事の次第を伺っている。
家族会議にでも連れてこられたような不可思議な感覚で、声をあげようと口を開きかけたら、あっけなく遮られてしまった。
「柚も、……もう、お嫁さんに、行ってしまうのか?」
哀愁たっぷりの一言でしばらくリビングが沈黙し、すぐにかわいらしい笑い声が2つ飛んだ。笑っているのは母親と萌さんで、耐えられなさそうに口を開く。
「お父さん! 私の時とおんなじこと言ってるよ!」
「ちょっと、もう~。柚の彼氏が困ってるじゃないの」
二人ともけらけらと笑って、「しっかりしてよ」と父親の肩を叩いていた。


