俺と会話する時の柚葉の表情は、まだ萌さんと会話しているときのものには程遠い。その表情をこれからどう壊していけるだろうか。
「うまく行ったら、キスさせてください」
隠すことなくストレートに伝えて、柚葉の瞳が動揺に震えるさまを見つめていた。
「いい?」
念押しして言えば、「そんなに価値のあるものではない、と思います」と狼狽えた声が上がった。
柚葉は自分の価値にまったく気づいていない。この家で育つとそうなるのだろうか。
「じゃあ、いっぱいもらおうかな」
「ええ?」
「きみにとっては無価値だったとしても、俺にとっては一番欲しいものだから」
からかうような色を乗せて囁いて、いよいよ瞳が潤んでしまった。頬をなぞっていた指先を離す。
「約束ですよ」
「あ、え……、あの」
「行こう。あんまり待たせちゃ悪いから」
勝手に会話を終了させて、柚葉の腰に、軽く手を触れさせる。それだけでぴくりと肩が上ずって、何も言わずに柚葉がリビングへと足を伸ばした。
リビングは、柚葉のマンションの一室と同じように、至る所に写真が飾られている。また、すこし前に俺が渡した花とは別の花も花瓶に生けられていた。


