「萌お姉ちゃん! 久しぶり!」
「最近遊びに来てくれないと思ったら! こんなかっこいい彼氏ができてたの~!?」
「うわ、あ、からかわないでよ~」
「からかってないよ! びっくりしたの!」
まるで女子高校生のような掛け合いだ。くるくると回りながらひとしきり抱き合って、柚葉が紙袋を差し出した。
「はい! お菓子作ってきた~」
「え~! 私に!?」
「へへ、紫くんほど、上手じゃないよ」
「いや~! 柚かわいい。だいすき~」
柚葉が料理好きになった要因は、姉夫妻の影響が強いらしい。
姉が無類の甘党で、作ると喜んでくれるのを見て、それが趣味になってしまったのだと聞いた。
可愛らしいやりとりを見つめていれば、我に返ったらしい姉が、ちらりとこちらを見て柚葉のことを離してしまった。
「ごめんなさい。……お借りしました。いま、お返しします」
「あはは、いえ。こちらこそすみません。しばらく独占させていただいていました」
姉がぽん、と肩を押して、すぐに俺の横に柚葉が返ってくる。
軽く受け取って呟いたら、柚葉の肩が上ずった。
どう考えても俺より柚葉のほうが緊張していた。
柚葉にとっては実家に帰るだけのイベントのはずが、前日の夜に珍しく電話をかけてきて、「どんなお洋服がいいですか?」と聞かれたほどだ。


