「ありがとうございます。突然で申し訳ありません」
「いえいえ、大丈夫ですよ。嬉しい報告が聞けそうだもんね? 柚」
「あ、う……、うん」
母親にからかわれて、俺の後ろにちいさく隠れてしまった。くすくすと笑われた柚葉が、コートを掴んでいるのがわかる。
「柚葉さん?」
「お母さん、あんまりからかわないでよ」
「あはは、ごめんごめん。さあどうぞ! 萌が騒がしいけど、ゆるしてくださいね」
母親は、さすがに柚葉の扱いがうまそうだ。
すぐにひょっこりと顔を出した娘を見て、やさしく微笑んでいた。
姉が「あー! 私も静かにしてます~!」と明るい表情を作っている。
なかなかに賑やかそうな家庭だ。
こちらの実家は男兄弟だから、女性陣が和気あいあいと笑いあっている姿を見ているだけでまぶしい気分になってくる。
促されるままに玄関に入って、やさしい匂いに触れた。柚葉が暮らしていた実家は、柚葉の家とも違うやわらかな香りがしていた。
さっきまで狼狽えていたかわいい女の子はすでに実家の居心地の良さに気分が落ち着いたのか、頬が緩みっぱなしだ。
「柚~! おかえり!」
靴を脱いで、真っ先に声をかけられる。
姉が発したらしい言葉に気づいた柚葉が、ためらうことなく声の発信源に飛びついてしまった。


