離れがたくなる魔法をたくさん持っている人だ。
専務の遼雅さんは、いつも人を甘やかさないように細心の注意を払って、あの性格を保っているのだと知った。
「柚葉さん」
「もう、佐藤ですよ」
「……佐藤さん」
「はい、橘専務」
困った顔をして、すこし時間を置いてから、ようやく気持ちを切り替えたらしい人が、一つ呼吸を置いて爽やかに笑った。
すでに橘専務のモードに入れたようだ。
いつ見ても、二人の時の姿と会社で出会う姿の違いに感激してしまう。裏表とまではいかないけれど、がらりと印象が変わる。
会社であんなにあまやかされたら大変だ。
優しい専務に戻った人が、さっきまでのどろどろの微笑みとは違った精悍な笑みで声をかけてくれる。
「危ないことがあったら、すぐに連絡してください」
「はい」
「じゃあ、後程」
ぱっと手をあげて、私が歩き出すのを確認してから右の道へと歩き出していく。
遼雅さんは心配性だ。
こうやって言い残しても、すぐに携帯に連絡が来る。
“たどり着いたら、一度連絡をください。俺もします”
どこまでもマメで紳士な旦那さんであることに、毎回頬が笑ってしまっていた。
こんなことをしていれば、相手が頻繁な連絡を求めてくるようになってしまうのではないだろうか。
遼雅さんは今何をしているのかを未だに逐一報告したがるから、過去の経験というのは恐ろしいものだと思ってしまう。何度相手にそういう振る舞いを求められてきたのだろうか。
“ちゃんと朝、ご挨拶に行きますから、心配しなくて大丈夫ですよ”
歩きながら丁寧に返せば、すぐに返事が返ってくる。
“俺が勝手に心配なんです”
“柚葉さんは、可愛すぎるから”
見ているだけで体温が上がりそうな返しに、さっそく黙り込んでしまった。
遼雅さんの癖を直してあげるのは、まだまだ難しそうだ。
専務の遼雅さんは、いつも人を甘やかさないように細心の注意を払って、あの性格を保っているのだと知った。
「柚葉さん」
「もう、佐藤ですよ」
「……佐藤さん」
「はい、橘専務」
困った顔をして、すこし時間を置いてから、ようやく気持ちを切り替えたらしい人が、一つ呼吸を置いて爽やかに笑った。
すでに橘専務のモードに入れたようだ。
いつ見ても、二人の時の姿と会社で出会う姿の違いに感激してしまう。裏表とまではいかないけれど、がらりと印象が変わる。
会社であんなにあまやかされたら大変だ。
優しい専務に戻った人が、さっきまでのどろどろの微笑みとは違った精悍な笑みで声をかけてくれる。
「危ないことがあったら、すぐに連絡してください」
「はい」
「じゃあ、後程」
ぱっと手をあげて、私が歩き出すのを確認してから右の道へと歩き出していく。
遼雅さんは心配性だ。
こうやって言い残しても、すぐに携帯に連絡が来る。
“たどり着いたら、一度連絡をください。俺もします”
どこまでもマメで紳士な旦那さんであることに、毎回頬が笑ってしまっていた。
こんなことをしていれば、相手が頻繁な連絡を求めてくるようになってしまうのではないだろうか。
遼雅さんは今何をしているのかを未だに逐一報告したがるから、過去の経験というのは恐ろしいものだと思ってしまう。何度相手にそういう振る舞いを求められてきたのだろうか。
“ちゃんと朝、ご挨拶に行きますから、心配しなくて大丈夫ですよ”
歩きながら丁寧に返せば、すぐに返事が返ってくる。
“俺が勝手に心配なんです”
“柚葉さんは、可愛すぎるから”
見ているだけで体温が上がりそうな返しに、さっそく黙り込んでしまった。
遼雅さんの癖を直してあげるのは、まだまだ難しそうだ。


