「お世辞じゃないですよ。それにかわいい人が作ってくれるものなら、たぶん俺はどんなものでも好きになります」
「かわいいひと」
「柚葉さんのこと」
念押しして囁いてから唇にキスを仕掛けてみる。
すぐ近くで、ようやく俺の言葉の意味を理解し始めたらしい柚葉が頬を染めて顔をそらしてしまった。
部屋は綺麗に片付けられていて、至る所に写真が置かれている。家族写真らしきものの横に、男と二人で写っている写真が飾られていた。
見たことのある顔だ。その男が、もう一人の会長のお気に入りであったことを思い出して苦笑してしまった。
隙を見せたら、簡単に奪われてしまいそうだ。
「柚葉さん」
「はい?」
「来週、何時ごろに伺えそうですか?」
「あ……、実家、ですよね?」
「そうです。場所は?」
「電車で一時間くらいです。ええと……、本当に、いいんですか?」
「じゃあ、車出します。良いって言うのは、結婚のこと?」
「そう、です」
好意をぶちまけてしまおうかと思うくせに、結局口に出すことをやめてしまっていた。ここで押したら、俺への明確な好意を持っていない柚葉は、あっさりと逃げ出してしまいそうだ。
「柚葉さんが、俺にあまやかされるのが嫌でなければ……、お願いしたいです」
下手に出て、まっすぐに見つめれば、とうとう観念した柚葉が、「お電話してきいてみます」と簡単に折れてしまった。
危機管理ができないかわいい柚葉のおかげで、難なく、宣言通り翌週に柚葉の実家を尋ねるアポを取ることができた。
すべてが順調に進みすぎている気がする。


