プロポーズ崩れの交渉をして、翌日にあっさりと柚葉の自宅マンションの位置を知ることができるとは思ってもいなかった。
とことん疑わない女性だから、こちらが心配になってしまうほどだ。女性専用のマンションらしく、いかに過保護に育てられてきているのかがよくわかる。
「良いマンションですね、どうやって探したんですか?」
「そうですよね。ええと、幼馴染に助けてもらって」
なるほど、そういう存在がいるのか。どう考えても男だろう。
送ると言って勝手に出した車の助手席で、柚葉がぽつぽつと喋っている。女性専用といいつつ、彼氏や家族など、男性を連れて歩く入居者を見ることは珍しくないらしい。
「すこし上がって行きますか?」と言われて、思わず苦笑してしまった。
どうやら、マンションに興味を持っていると思われてしまったようだ。とことん自分がどういう立場に置かれているのか、よくわかっていない。
「いいんですか?」
「はい、あの、お茶くらいしかありませんが……」
「それじゃあお言葉にあまえて」
柚葉の部屋は、甘い匂いが充満していた。
この匂いが、これからつねにそばに在るのだと思うと不可思議な感慨が襲い掛かってくる。


