耳に誑し込んで、すべての思考を粉々に砕いてやる。ただそれだけで、わけもわからずにすがりつく騙されやすい瞳に視線が絡む。
溺れそうだ。
吸い込まれて、不自由なまま求めてしまいたくなる。
「ご両親に、挨拶してもいいですか」
「ん、い、いです、けど……っ」
そんなに簡単に認めて良いことじゃない。
上司なら忠告すべき事柄に、嬉々として笑う自分がいることを知った。教えてあげない代わりに、今後はすべての危ないものから柚葉を遠ざけるようにする。
だから許してほしい。
「よかった。早く結婚したい。……柚葉さんと」
願うよりも、決定事項のように囁いて、呆然とする柚葉の唇を奪った。
勝手に身体を攫って、寝室のベッドの上にやさしくおろす。さすがに何をしようとしているのかわかったらしい柚葉が慌てるのもキスで封じ込めたら、あっけなく、小さな頷きで認められてしまった。
そんなにも無防備で、どうするの?
見えない嫉妬に駆られそうで、夢中で手を伸ばした。触れると吸い付くようなやわい肌に、思考が熱くなってくだける。
執着とは、おそろしく不自由な感情だ。
「たち、」
「名前」
「り、りょう」
「うん?」
「あ、りょう、が、さ……」
邪魔するように触れると、泣きそうな瞳が俺に縋り付いた。ずっとこうしていたい。おかしなことを思っていた。


