握りしめられた手をじっと見つめていた。
かわいらしい指先はとっくに俺の手から離れなくなっていて、愛おしい無意識に、到底帰してあげられる気もしない。
「俺の家に、連れ込みますよ?」
許可を取るようで、勝手に決定する。
頷いているのかも曖昧な女性を家に連れて、犯罪まがいのことを仕出かしている現実に苦笑してしまった。
手を出さずに、誠実に交渉しようと切り替えて、ソファに座らせる。真正面から見つめるその人が、すこしだけ冷静な瞳を取り戻したのを見ていた。
きみしかいない。
それを伝える方法が浮かばずに携帯を取り出した。
ひどく狼狽えた柚葉に囁かれた言葉で、とうとう魅力に陥落する。
「橘さんの心は、橘さんのものです」
「俺の?」
「はい、だから、隠してもいいんです。……たくさん、いろんなものを大事にできる人のほうが、すてきです。こんなことをしなくても、そばにいてくれる人が、たくさんいます」
きれいな方程式を教えてくれる。
どうあっても、俺をひいきしない、平等な瞳が見つめてくれている。
きっと隣にいる間、ずっと惹きつけられてしまうだろう。
このかわいい女性のこころを奪いたい。
「抱きしめて良いですか?」
問いかける口調で、その実、答えさせる気はない。


