「どうしようもなく、あまやかしたい」
「な、にを?」
「奥さんになる人のことは、とことんあまやかしたいです。ダメですか?」
きみのことだよ。
こころの中で囁くおぞましい執着心を、綺麗に隠して笑った。
逃がしてはあげられない。
ほしくてたまらなくなってしまった。
契約結婚だと言い聞かせて、勝手に俺のものにする。そのうち敬意と好意を勘違いして、俺を愛するように仕向ければいい。
今まで考えたこともないようなシナリオが簡単に頭に浮かんで、こびりついた。
ずっとこうしたかったのだろうか。
わからない。ただ猛烈に惹かれていることだけが確かで、あとはもう、ほとんど本能的な行動だっただろう。
簡単な交渉術を使った。
着地予定地は婚姻関係を結ぶことで、うまく行けばその契約を早期に繰り上げられる。
「――じゃあ、来週は柚葉さんのご両親に、挨拶に伺います」
すこし酔った女性に仕掛ける罪悪感はあっても、支えるように触れたあまやかな匂いにどうでもよくなる。
もらってしまおう。勝手に決めつけて、タクシーに乗り込んだ。
「柚葉さん、帰れますか?」
「う、ん……、かえ、らなきゃ」
「ゆずはさん」
「ごめ、んなさい、すごく、酔って……」
「俺がついていますから、大丈夫です」


