「俺のこと、好きにならなくて良いです」
「あ、う」
「仕事も続けて良いです。……ここは会長の後ろ盾もあるので、絶対です。もちろん家庭に入りたいなら、それもいいです。俺が働きます。なるべく楽しく、あたたかい家庭にしたいです」
「え、と」
「もし仮に、俺が誰かを依存させるようなことを仕出かしたら、止めてもらえますか?」
「それは、あの、いつでもできますが……」
「ありがとう」
畳みかけるように条件を提示すれば、慣れない交渉に狼狽える、かわいい瞳と見つめ合えた。
すこしアルコールを入れられてしまった可哀想な女の子が、必死に頭を回そうとしている。
咎めるようにそっと手を握って、一つひとつの指を絡み合わせた。
何も考えなくていい。
頷くだけで、混乱から解放してあげられる。じっと見つめて、ぐるぐると回るかわいい瞳を観察していた。
「……だから、抱きしめて眠ってほしくて」
「そうされればゆっくり眠れるんですか?」
「そう、ですね、ええと……。それくらい、です」
「なるほど。わかりました。かわいいお願いだ」
指先をなぞる。
熱を込めて、できるだけ直接的ににじませる。
冷えきっていた指先は、すでに俺のものと同じ温度に変わってしまっていた。


