「佐藤さん、かわいいとは思わんか?」
何ともひどい言葉だと思った。
顔には出さずに頷いて、満足そうに微笑まれたのを見て察してしまう。淺野会長は、意図をもって、愛娘のように可愛がっている秘書を俺のもとに送り込んできた。
「魅力的な女性ですが」
「きみならわしも安心できる」
肩を叩かれて、ソファで座りながら笑っている同期をちらりと盗み見た。
完璧なお膳立てに反抗しようと思ったのは一度だけで、週末の駅前に現れた佐藤柚葉の姿を見た時には、罠だと知っていても、どうでもよくなっていた気がする。
かわいらしい暖色のワンピースに、軽く巻かれた髪が揺れて流れる。目があったら、はにかんだ女性が軽く手を振ってくれていた。
まぶしいくらいに、やさしい。触れたくなる光景だった。
このかわいい女性を引き込んだら、俺は間違いなくこの先もこの会社に貢献することを余儀なくされるだろう。
淺野一族のにんまりとした微笑みは、柚葉がおいしそうにケーキを頬張る可愛らしさに砕けて消える。
「かわいいな」
「ん、どうしましたか?」
「ううん。何でも。それ、おいしそうですね」
とろけてしまいそうな頬に眩暈がする。
冷たく振る舞うきみと、無防備に笑うきみ、一体どちらが本物なのか。
すべてを暴きたくなる魅力で、勝手にとりつかれる。
「会長は、こうだと思ったら、声が聴こえなくなってしまう時がありますよね。かわいらしいです」


