きゅっと力のはいった腕に抱きしめられて、今すぐ微睡みたくなってしまった。やんわりと頭を撫でる手はやさしくて、病みつきになってしまう。

本当に、とんでもない相手と結婚してしまったものだ。


「もう、大丈夫です」

「うん?」

「遼雅さん」


何度か言っているのに、一向に放してくれる気配がなくて、すこし笑ってしまった。私が笑う音に気づいたのか、腕を緩めて顔を覗き込んでくる。うっとりと瞳を眇められて、胸にあまさが突き刺さった。


「柚葉さん、笑うと可愛すぎるから、こまった」

「ええ?」

「ああ、放したくないな」

「今日は9時から……」

「はい、わかってます」


言いかけたら、くすくすと笑い声が上から響いてきた。最後に頬を撫でられて、あまい瞳と視線がぶつかる。


「行こうか」

「はい。……あ、待ってください」

「うん?」


うっかり忘れかけていた。

繋がれていた手をぱっと離して、薬指に嵌めていた指輪を優しく引き抜く。それを玄関に置かれたプレートの上にそっと置いてから、遼雅さんと向き合い直した。


「え、どうしたんですか」

「……外さなくても、いいんだけどなあ」

「ええ、ばれちゃいま、」


途中まで言いかけて、ちゅ、と唇に熱が触れた。軽快なリズムに吃驚して、目の前の人が楽しそうに笑うのが見えた。