「まあ、両親に孝行するのも一つの手かなとは思ってるよ。淺野には悪いけど」
「悪いけど、じゃないんだよなあ。橘、お前本当に見合いに来るような女でいいのか?」
「相手はどんな人でもいいよ」
「理想とかねえの?」
何が楽しくて、俺は同期に居酒屋でこんな話をされているのだろうか。おかしな気分になって笑えば、「真面目に答えろ」と促されてしまった。
「ないね」
「熊みたいな女でも?」
「熊? 失礼な言い方は改めたほうがいいよ」
「役職おりるかもって……、実家継ぐってことだろ?」
「そうだね。そろそろ年貢の納め時だろうね。両親には受けてもいいって話してるから、進捗次第では一年以内に」
「わかった」
「なにが?」
「お前がほしくてほしくて、仕方がなくなるような女、俺が見繕うわ」
結果は散々だった。と思いたい。
それすらもあの一族の手の内だと思うと不服だ。
見合い相手は淺野の祖父からの紹介というていになっているが、実際は淺野がパーティで知り合った相手だった。
大澤茜は見目のいい、大和撫子を思い描くような女性で、初対面の時には俺を見てぱっと目をそらしてしまった。
会話は得意ではないと言っていたからそれなりに気を使っていれば、帰りがけには隣り合った指先に触れられて、なるほどと思い、手をつないだ。


