どう考えても会長が繋いでくれた縁だというのに、忘れたふりをしているのか、本当に忘れてしまったのか。全くわからないところが可愛らしいところだ。

しかも、同じように遼雅さんが挨拶をしに来ていたことに驚いてしまった。本当に何から何まで気遣いのできる人だ。


「配置のことも……、よろしいんでしょうか?」

「うん?」

「そのまま専務付きの秘書でよろしいということで……」


遼雅さんがどうかけあってくれたのかは全く分からないのだけれど、人事部長からは配置転換は私が退職する理由ができたとき以外には考えていないと言われてしまった。

遼雅さんの同期らしいその人に「本当に橘と結婚したんだな?」とおかしな言葉をかけられてすこし笑ってしまった。


「どちらもよい働きをしてくれているのだから、問題ないんじゃないか? せがれがそう判断したのなら、わしは大歓迎じゃ」


気にした様子のない会長にほっと息を撫でおろして、ようやく肩の荷が下りた。

何気ない会話とケーキを楽しみながら、時間はすぐに過ぎ去ってしまう。役員面談はきっかり60分と決まっているから、時間を見て「そろそろ」と切り出した。

私が切り出さなければ、会長は永遠と楽しい話を聞かせてくれる。