すこし気分が落ち着いたのだろうか。
ソファに座っている私の横に立って、尋ねてくれる。拒否する理由もなくうなずいたら、わたしのあごに手を添えて、屈みながら唇を触れさせてくれた。
やさしい唇にあまやかされて瞼をあげたら、遼雅さんがとっておきの笑顔を見せてくれているのが見えて、同じように笑ってしまった。
「よし、元気出ました」
「本当ですか? よかったです」
「柚葉さんのおかげです」
「ふふ、それならなお、よかったです」
「きみのおかえりがたまらなく好きだ」
「うん?」
「今日も柚葉がかわいいって意味だよ」
さらりと茶化して、立ち上がってしまう。
何も言い返せないうちにやわく髪を撫でた遼雅さんが、バスルームへと向かってしまった。一人取り残されて、やさしい熱が乗った唇に指先で触れる。
思い返すだけであつくて、ソファに倒れ込んでしまった。
すきすぎる。どうしたらいいのか、わからない。
手持無沙汰でごろごろして、立ち上がっては鞄の近くまで歩く。フローリングに座り込んで、すっかり存在を忘れていた携帯を取り出した。
画面に残る連絡に、指先が固まってしまう。
「え、ええ」
メッセージと着信履歴が、合わせて20件も残されている。すべて相手は橘遼雅になっていた。
連絡を忘れてしまうことは、壮亮にも何度か怒られたことがあった。


