遼雅さんのあつい拘束から解放される前に口づけられた薬指には、今、彼が選んでくれた結婚指輪が嵌められている。

いつも、帰ってきてすぐに嵌めるようにしていた。嵌め忘れると、遼雅さんはちょっと機嫌を損ねたような顔を作ってしまうからだ。

全部、遼雅さんのあまやかしだと思い込んでいた。


「う、うーん……。おちつかない、どうしよう」


ちょうど鍋の具合もよさそうで、静かに火を消した。

さっきからキッチンを行ったり来たりしていることに気づいてしまった。彼氏が来るのを心待ちにして、そわそわしていた姉みたいなことをしてしまっている。

ふいに思い至って、おとなしくバスルームへと足を向けた。


服を脱ぎながら、遼雅さんに体のあちこちを洗ってもらった日のことを思い出して一人で頭を振り乱した。


「うう、あー、やだ。はずかしい……」


何を思いだしているんだ。胸がくすぐったくて、どうにか忘れようと浴室に足を踏み入れた。


今日も遼雅さんはかっこよかった。

漠然と思いながら、身体を隅々まで洗って、ゆっくりと湯船に浸かる。瞼の裏には今日もやさしく微笑んでくれている遼雅さんがいて、ため息が出てしまった。

すこし前まで会っていたのに、もう会いたい。

おかしいなあと思うのに、こころの中が遼雅さんでいっぱいになってしまうから不思議だ。

薬指にかがやいている星のような指輪を透かすように天井にかざして見て、頬がほころんでしまった。

どんな理由だったとしても、遼雅さんと結婚できてよかったと思う。