「……くちべにつけてもいい、は、だめです」

「きみにしか言わないから、ゆるしてくれないですか」

「ええ……? どういう」

「柚葉さん」


頬を撫でながら抱きしめてくれていた人に、もう一度名前を呼ばれてしまった。

顔をあげてほしいという意味だと理解できて、おずおずと持ち上げる。


視界の真ん中で、すこしいたずらな瞳が私を見つめていた。

もう、それだけでやっぱり好きだと思ってしまうから、遼雅さんはずるい。


「どういう意味か答えるから、俺のお願いも聞いてくれないかな?」

「おねがい?」

「もう忘れちゃった?」

「う、ん?」

「きみを抱きたい」

「う、あ……」

「隅々まで舐めて、キスして、俺のものだって、確認したい」


隠すことなくまっすぐに願われて、眩暈がしてしまう。

遼雅さんは至って当たり前に囁くから、どうしたらいいのかわからないのだ。考えあぐねて、ようやく意味のない問いを返す。


「どう、したんですか」


その問いの答えが、交換条件になっていた遼雅さんの言葉の意味とまったく同じ回答になることを知っていたら、もうすこしうまく言葉を返せていたのだろうか。


「あまやかしたいんだ。――柚葉さんだけ」

「わたし、だけ……?」

「そう。柚葉さんだから、嫉妬するんだ。他の誰でもない、きみだけ」

「それ、は……」

「あはは、おどろいてもかわいい。……どういう意味か、答えたよ。柚葉?」

「え!? あ、まって」

「かわいい俺の柚葉さん」


「――俺の言ってる意味、そろそろわかってくれませんか?」