あの発言のあとに契約結婚を持ち掛けてくれたのだから、遼雅さんは、お互いが得をする関係になっていないことを懸念していたのかもしれない。

とことん優しい紳士だ。


自分でも驚くほど極度の寒がりだ。冬は寒さに目覚めてしまうことも多い。

体温の高い誰かに抱きしめて眠ってもらえるだけで睡眠の質がまったく違うことに気づいてからは、あたたかそうな人を見るだけで、うらやましい気分でいっぱいだった。

ほどよく熱い胸に触れて、静かに頬を寄せてみる。

何と素晴らしい朝だろう。

遼雅さんと結婚してからは、ほとんど睡眠不足に悩まされることもなくなった。

他の理由で眠れないときもあるのが、ちょっとした悩みになったのだけれども。


「あったかい」

「……あんまり可愛らしいと、起き上がりたくなくなるよ」

「わ、」


頭上から囁かれる声は、適度に低くてあまい。寝起きでさえこんなにもセクシーな声が出てしまうのだから、やっぱり遼雅さんはずるいと思う。

顔をあげれば、すぐ近くで微笑んでいる。

すでに甘やかしモードになっているらしい旦那さんが、当然のごとく頬に指先で触れて、やわく撫でてくる。


「遼雅さ、」

「ゆずは」


小鳥の口づけのような、かわいらしいリップノイズが耳元に触れた。

至近距離で私を見つめる瞳は、どこまでもやわらかい。