いっそ愛おしいものへ囁くような、胸に焼けつくあまったるさが耳に残った。
ひどい暴言とは思えないような粘度に、指先の感覚がおかしくなる。
遼雅さんは、あまり部屋から出ないようにと言っていた。心配だからと何度も言われた。何かおかしなことはなかったかとも聞かれ続けてきた。
「橘、クソ邪魔な男だ。あいつが居なけりゃもっと早くに迎えに来てやれたのに」
「あ、…‥あ、や」
「可愛がってやるから、な?」
暗闇から手が伸びてくる。まっすぐに自分を捕らえようとしている手に抗いようもなく、ただ瞼をきつく閉じる。
遼雅さん、遼雅さん、遼雅さん——。
たすけて。
「――渡さん、厳重注意の内容は、もう頭から抜けてしまったんですか」
こころの声に、呼応する。まっすぐに響く。胸に刺さって、どこまでもつよく、燃え広がる。
「直ちに離れてください」
淡々と、怜悧な声が響いた。
感情が抜け落ちたような声をあげた人が、ぱちりと給湯室の電気を入れた。
瞼を瞑っていても光る刺激に眩んで、次に瞼を押し上げたら、すぐ目の前にしゃがみこんでいたはずの人が、立ち上がって落ち着きなく私から目をそらしていた。
その先に、よく知った人が立っているのが見えた。おかしなくらいに竦みあがっていた体から、力が抜ける。
「橘専務、私は何も……、彼女がコップを割ったようなので、指導をしていただけですよ」


