「――どんな技で、誑かした?」
「っひ、わ、わたり、ぶちょ……」
腰を抜かして、ただ見上げるしかない。その人は暗がりの中でもわかるくらいに、不気味な表情を浮かべている。
怒りとも愉悦とも取れるような、おそろしい顔だった。
目が合ってたまらず声に出た。
渡総務部長だ。
どうしてこんなことをしているのかわからない。混乱して後ろへ下がろうとしても、ただ壁に張り付くだけだった。
「な、なんで」
「なんで? なんでだろうな? お前が誘ってきたんだろ」
「な、に……を」
「しらばっくれんなよ。俺に惚れてるんだろ? 毎回教育してやっただろ。お前はわかってないから、俺がたくさん教えてやったよな」
「ぶ、ぶちょ……」
「柚葉のためにやってやっただろ? それなのになんだ? あんまりさみしくて、浮気したのか?」
「なに、いって……」
ゆっくりとしゃがみこんで、顔を寄せてくる。その目が血走っているのが見えて、喉がひりついた。
こわい。どうしようもなくこわい。
ただおそろしくて、言葉にならない。
「犯してやる。お前が誰のものか、ちゃあんとわかるように、いますぐ、ここで」
「や……、めて」
「純情ぶんなよ、クソあばずれが」


