コツコツ、と自分の足音だけが響き渡る。
お昼の雑踏も、誰かの笑い声も、テレビの音も、何一つない。
世界に自分だけしかいないような気がしてしまう。
さっき遼雅さんの頬に触れて笑っていたばかりなのに、もう会いたくてたまらなくなってしまった。
もう、しばらく一人になる隙のない生活をしている。
必ず遼雅さんが側にいてくれるからか、些細なことに心細くなるようになってしまったみたいだ。
しっかりしなければ。
自分に言い聞かせて、給湯室に足を踏み入れた。
「っひ……!?」
すりつぶしたような音が出た。
強引に背中を押されて、その場に倒れ込む。大きく音を立ててティーカップがこぼれ落ちた。
スローモーションの視界の中で、白い陶器がばらばらに砕けていく。
まるで、壊れたら戻らない、人の心みたいに。
「……あ、な、」
言葉にならない。
明かりも付けられていない給湯室に押し込まれて、立ち上がることもできずにただ震えている。
誰が。どうして。なぜ。
いくつも疑問だけが浮かんで、シューズがにじり寄る音を聞いたら、こわばった体が壁まで後退していた。
逃げる先がない。どこにもない。
どんなに叫んでも、聴こえることもないだろう。絶望の温度が指先に触れて、かたかたと肩がしびれ続けている。


