【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】


コツコツ、と自分の足音だけが響き渡る。

お昼の雑踏も、誰かの笑い声も、テレビの音も、何一つない。

世界に自分だけしかいないような気がしてしまう。

さっき遼雅さんの頬に触れて笑っていたばかりなのに、もう会いたくてたまらなくなってしまった。


もう、しばらく一人になる隙のない生活をしている。

必ず遼雅さんが側にいてくれるからか、些細なことに心細くなるようになってしまったみたいだ。

しっかりしなければ。


自分に言い聞かせて、給湯室に足を踏み入れた。


「っひ……!?」


すりつぶしたような音が出た。

強引に背中を押されて、その場に倒れ込む。大きく音を立ててティーカップがこぼれ落ちた。

スローモーションの視界の中で、白い陶器がばらばらに砕けていく。

まるで、壊れたら戻らない、人の心みたいに。


「……あ、な、」


言葉にならない。

明かりも付けられていない給湯室に押し込まれて、立ち上がることもできずにただ震えている。

誰が。どうして。なぜ。

いくつも疑問だけが浮かんで、シューズがにじり寄る音を聞いたら、こわばった体が壁まで後退していた。


逃げる先がない。どこにもない。

どんなに叫んでも、聴こえることもないだろう。絶望の温度が指先に触れて、かたかたと肩がしびれ続けている。