脅しのように聞こえなくもない善意で扉が閉まる。

静まり返った病室で、今更のように橘専務の腕の中から解放された。


「……ええと、橘、専務?」

「今すぐ掛け合ってくる。本当に申し訳ない……。佐藤さんは心配しないでください」

「あの、」

「変な誤解を招くようなことをしました。ごめんね。……すぐに会長には理解してもらうから」

「でも、違うってわかったら、橘専務は」

「佐藤さんには迷惑をかけないから」


あの口ぶりでは、外部の会社のことも関わっているのだろう。たしかにさっき見た女性はお嬢様のような風貌だった。

最悪、退職に追い込まれる可能性もありそうだ。

橘専務が悪かったことは一度もない。しいて言うなら、かなり優しすぎて勘違いさせてしまうことくらいだ。


「なにか、方法はあるんですか?」

「……それは」


どんなに愛想がなくても、専務は気にすることなく笑いかけてくれていた。いつも仕事に真剣に取り組んでいることも知っている。

この会社の仕事も好きなのだと思う。

専務の瞳が揺れている。動揺しているのだと知った。

いつも、優しく微笑んで私を安心させてくれる橘専務のことは尊敬しているし、人間的にも好感を持っていた。


それにしたって、どうしてそんなことを、言おうと思ったのか。

たぶん、他の女性と同じで私も橘専務の引力に引き寄せられていたのかもしれない。


「――本当に、結婚しましょう、か?」


提案したときの私の顔は、いつもと同じくまったくの無表情だったらしい。