「ええ? 遼雅さんは休んでください」

「あはは、俺が言ってるのは、そういうところなんだけどなあ」

「今、あまやかしていましたか?」

「そうだね。俺のほうが独身歴は長いし、料理も一通りは作れるよ」

「それはわかってますよ。遼雅さんの朝ごはん、いつもおいしいです。ありがとうございます」


「じゃあ、リクエスト」と言いつつ、遼雅さんの手がカレーのルーを掴んでいた。

今日の献立はそれに決めたらしい。「どう?」と首を傾げられて、おかしく思いながら頷いた。

すこし子どもっぽくて可愛らしいなんて、独身歴も年齢も上の遼雅さんには、言うべき言葉ではないだろう。


「一緒に料理したら、ずっと隣にいられるし、はやく作り終えたら、そのぶんきみを独占できる」

「え?」

「だから今日はカレーにします」

「……すきだから、なのかと」

「あはは。すきですよ」


ひまわり模様の瞳が、まっすぐに私を見つめている。

そらせない色気に、言葉が止まってしまった。遼雅さんの生命がはじきだす音以外は、すべてが水中都市におっこちてしまったような錯覚がある。


「かわいい奥さんを独占していられる時間、たまらなく好きです」


強烈な引力に惹かれている。遼雅さんの瞳がゆっくりと瞬いて、やわく眇められる。


「はやく帰りましょう。――それでたっぷり、柚葉さんを俺に下さい」