「じゃあ、お迎え、お願いしてもいいですか?」

『それはもちろん。光栄です』

「ふふ、じゃあ、待っています」

『すぐに行きます。それまでに何かがあったら、すぐに連絡すること。いいですか?』

「はい。承知しました」


途切れた携帯をコートのポケットに押し込んで、カートを押していく。

かごの半分ほどが埋まったところで、後ろから優雅な足音が聞こえた気がした。

振り返って、まっすぐにこちらに歩いてきてくれている男性と目が合う。思った通り、我が旦那さんだ。


「柚葉さん、疲れているのに、ありがとう」


出会い頭に、微笑みながら感謝を述べられることも、なかなか無いような気がする。

流れるような仕草でカートに触れられて、思わず押していた手を離してしまった。


「俺が押します」

「……遼雅さんのほうが、お疲れですよ?」

「目利きはお任せします」

「わかりました。任せてください」


一度家に帰ったはずなのに、会社から出たときと同じ格好で駆けつけてくれたらしい。

よほど急いでくれたのだろう。やさしい事実に胸が温かくなってくる。己の感情を自覚すると、あからさまにいいところがたくさん見つかってしまうから厄介だ。


「遼雅さん、一週間お疲れさまでした」