「うん、どこかに設置したと言われて、私もそうそう会いにも行けないでいたから、それで気が済むならと思っていたんだ」

「……はい」

「男のさみしい一人暮らしなんて、見ても何の価値もないし。隠すこともないから」


橘専務の私生活なら、大金を叩いてでも欲しがる人がいそうだ。とは、さすがに言えずに黙る。


「でも、さすがに同僚についてまで説明を求められると……、どうやったら安心してもらえるのか」

「……愛を、つたえる、とか?」


我ながら、あまりにも苦しい提案だ。私の言葉で、専務の顔が曇ってしまう。


「……会長に用意していただいた縁談だったんだ。彼女も、私を好いているわけではないと思う」


心底困った表情に言葉が絡まってしまった。

どう考えても、相手は橘専務にぞっこんだ。専務が一向に好意を見せてくれないからエスカレートしてしまうのだろうか。

すでに立派な犯罪になってしまっている。

どうやってそのことを説明するべきなのか考えあぐねて、専務に付き従う形でエントランスから出る。


タクシーは、少し先のほうに横付けされていた。

顔をあげて、その近くに一人の女性が立ち尽くしているのが見える。