今何か、聞いたことのない言葉が聞こえた気がした。
カメラ、とは、私の知っているあのカメラだろうか。驚きすぎて、声が出てしまった。
私を振り返った人が、同じように驚いた顔をしている。
「あれ、佐藤さんがおどろいてる」
一呼吸おいて、花が咲きそうな笑顔に見つめられてしまった。
まぶしい。
うっと喉が鳴りかけて、おそるおそる声に出す。
これは、おかしなことが起きているに違いないのだ。橘専務は基本的に優しい。やさしすぎて、いろいろと、勘違いをさせてしまうくらいに。
「あの……差し支えなければ、もう少し詳しく聞いても?」
「うん?」
「その、お相手のこと」
「あはは。お恥ずかしいな。でも、相談に乗ってくれるなら」
橘専務の魔力に誑かされて、何人かの女性社員が好意を押し付けた挙句、半狂乱になってしまったと聞いたことがある。
初めはまさかと思っていたが、あの距離感で、ふんわりと笑って近づいてくれて、「家まで送る」なんて言われたら勘違いしてしまうだろう。
専務が異様なくらいセクハラに気を使っているのはそのせいだ。結局、あまり効果は見られていないのだけれど。
「カメラっていうのは……」


