【12/18番外編更新】あまやかしても、いいですか?【完】



今何か、聞いたことのない言葉が聞こえた気がした。

カメラ、とは、私の知っているあのカメラだろうか。驚きすぎて、声が出てしまった。

私を振り返った人が、同じように驚いた顔をしている。


「あれ、佐藤さんがおどろいてる」


一呼吸おいて、花が咲きそうな笑顔に見つめられてしまった。

まぶしい。

うっと喉が鳴りかけて、おそるおそる声に出す。

これは、おかしなことが起きているに違いないのだ。橘専務は基本的に優しい。やさしすぎて、いろいろと、勘違いをさせてしまうくらいに。


「あの……差し支えなければ、もう少し詳しく聞いても?」

「うん?」

「その、お相手のこと」

「あはは。お恥ずかしいな。でも、相談に乗ってくれるなら」


橘専務の魔力に誑かされて、何人かの女性社員が好意を押し付けた挙句、半狂乱になってしまったと聞いたことがある。

初めはまさかと思っていたが、あの距離感で、ふんわりと笑って近づいてくれて、「家まで送る」なんて言われたら勘違いしてしまうだろう。

専務が異様なくらいセクハラに気を使っているのはそのせいだ。結局、あまり効果は見られていないのだけれど。


「カメラっていうのは……」