このまま帰ろうかと思ったけどやっぱり2人の事が気になってしまい、校内にいるはずの2人を探す。

しばらく校内を探し回り、屋上に続く階段で話し込んでいる2人を見つけた。

声をかけようか迷ったけど、何となく声をかけられる雰囲気ではなかったので、私はこっそりと2人に近づいて様子を見る。会話は聞こえないが、柳は時折切なそうな表情で山下君に話しかけていた。

2人の表情に私の胸がざわめき始め、やっぱり声をかけようと思った瞬間……

「え?」

まさかの展開に私は絶句する。柳が山下君に抱きつき、そのまま山下君の唇を奪うようにキスをしたのだ。

最初は目を開けて山下君も戸惑っているように見えたけど、柳を受け入れるかのように彼も目を閉じた。

その様子に私は頭が真っ白になり、その場に(かばん)を落とした。その音に2人はパッと離れ、私の存在に気づく。

「紗倉!?」

柳と山下君はまさか私がいるとは思わず驚きを隠せない。しばらく3人の間に沈黙が続いたが、柳が気まずそうに声をかけてきた。

「あ、あの……紗倉」

柳は私の方に手を伸ばそうとしたが、私は無意識に柳の手を払いのけた。

何も聞きたくない……

何も考えたくない……

そんな思いからか、私は落とした(かばん)を無言で拾い上げ、走ってその場を立ち去った。

走って

走って

私は雨の中、傘もささずに走って学校の外に飛び出した。現実を見るのが嫌で全力で走り続けた。そしてしばらく走り続けた後、呼吸を整えて下を向きながらゆっくりと歩き出す。

頭が真っ白のままの状態で歩いていると周りの音が全く聞こえてこない。人の声や車の音、その他どんな音も今の私には届かなかった。