「花」


うそだろ?別れようってことか?
こんなに簡単に?


さっきの話を聞いて幻滅してしまったのか?


花に嫌われたのか……。


胸の奥に熱いものがグッとこみあげてきて、それ以上何も言えなかった。


いやだ、別れたくないって言いたいのに言えなかった。


だけどこのまま離れたくなくて握っていた彼女の腕から手を離さなかった。


(実行委員長の鷹月さん、至急本部までお戻りください)


その時、放送の声が青い空に響き渡る。


うそだろ、こんな時にタイミングが悪い。


彼女とゆっくり話し合う時間もないのかよ。


「もう行かなきゃ、離して千景くん」


涙の跡がついた顔で彼女は言ったけど、首を横に振った。


「もう時間がないから、離して」


聞いたこともないような冷たい彼女の声。


彼女はいつも全身で俺のことを好きだって言ってるような気がしてた。


だけど、この時は全身で力一杯拒絶されたような気がした。


こんなのは初めてで、かなり辛かった。


諦めて頷くと、ようやく手を離した。


それ以上彼女のほうを見れなくて自分の足元ばかりを見つめていた。


追いかけたいのに、これ以上嫌われるのが怖くて動けなかった。


俺って、こんなに駄目な奴だったんだ。


自分では何でも器用にこなしているつもりだったけど、この時の俺は空っぽだった。