図書室が閉まってから、一週間が経った。
今日は、いつもより早く給食を食べて、図書室に向かう。
私の学年は1階に教室がある。
2年生は2階。
3年生は3階に教室がある。
私はまだ、○階のどこに○○室があるなど、全く覚えていない。
けれど、みんなはもう覚えているらしく、
私だけ置き去りにされているみたい…
早く図書室に行って、この気持ちを忘れたいな。
3階に行くと、美礼ちゃんが、図書室の中で本を読んでいた。
あ、美礼ちゃんだ!
話しかけようと思い、声をかけようとしたとき、
「ねーね!これ見て!美礼ちゃんが欲しいって言ってた本じゃん!今度、誕生日にプレゼントするね!」
という声が図書室から聞こえてきた。
え?誰?
「あっ、ほんとに!?すごく嬉しい!ありがとう、歌歩(かほ)ちゃん。」
歌歩ちゃん?
美礼ちゃんの姿に隠れていただけで、すぐ隣にいたらしい。
歌歩ちゃんって誰?
こちらからは姿が見えない。
図書室の反対側のドアから見てみようと動いたとき、
「あれ?穂乃香ちゃん?」
美礼ちゃんが私に気付いた。
「あ…」
「ねーね、美礼ちゃん。あの子誰?」
歌歩ちゃんがこちらをじっと見つめている。
「あ、こんにちは…」
「やっほ〜!穂乃香ちゃん元気だったぁ?」
美礼ちゃんが本を歌歩ちゃんに渡すと、走って来てくれた。
「久しぶりだね。私は元気だったよ。」
「え?元気だったって今は元気じゃないの?」
「え、違うよ。今も元気だよ!」
少しまえから、学校ですれ違う度に話しかけてくれるようになった。
私も、美礼ちゃんには楽しく話しかけることができる。
「ねーね、歌歩ちゃ〜ん!こっちに来てよ!一緒に話そう!」
「え?あ、うん…」
歌歩ちゃんが美礼ちゃんの隣に並んだ。
「この子は、私が中学校に入って初めてできた友達なんだ!野原穂乃香ちゃんだよ。」
え…
初めてできた友達って言ったよね?
美礼ちゃんってフレンドリーだから、私よりもとっくのとうに友達なんかできてると思ってた。
だけど、美礼ちゃんも私と同じで、お互い、初めてできた友達同士だったんだ!
嬉しい…
「こんにちは。歌歩ちゃんだよね?よろしくね。」
「…よろしく。」
「あっ、ごめん。こちらは高嶺歌歩(たかねかほ)ちゃんだよ!」
「高嶺?高嶺の花とかって言うよね。高嶺っていう苗字が入ってるってすごいね。」
勇気を出して、私も美礼ちゃんみたいにフレンドリーに話しかけてみただけなのに。
「…え、あーうん。ありがと。」
あんまり嬉しくなさそう。
「歌歩ちゃん大丈夫?調子悪いの?」
美礼ちゃんが保健室に行かせようとしているみたい。
だよね。なんか反応が薄いし…
どうしたのかな?
「ううん!大丈夫!美礼ちゃん、早く教室戻ろっ!」
「え?ほんとに大丈夫なの?」
「うん!ほら、早く早く〜」
「え、あっうん…」
歌歩ちゃんが美礼ちゃんの手を握る。
「穂乃香ちゃんごめんね!先に教室に戻るね〜」
「え。分かった…じゃあね!」
もう一度ごめんね〜と言って、美礼ちゃんは、歌歩ちゃんに連れられて行ってしまった。
どうして?
私、歌歩ちゃんに嫌われてる……?
だんだん不安になってきた。
せっかく歌歩ちゃんとも友達になれたと思ったのに。
やっぱり、私は一人ぼっちになる運命なんだ…
でも、涙は出てこなかった。
そこまで傷つかなかったから…