『今更、お父様に抵抗しようなんて考えてる?』



文化祭の日、友梨子さんは俺を見つめて言った。



俺と同じように、不自由の中で懸命に生きてきた女だ。


期待に応えようと。


健気で哀れで。


まるで自分を、見るようだ。




『考えてないよ』

『…私は、透くんが好きだよ』



真っすぐに俺を見据えて言うから、俺は短くため息をついて。



『それは違うよ。好きだと、思わされているだけだ。環境に。俺という選択肢しか与えられなかったから、俺に満足しようとしているだけだ』


『違う』

『違わないよ。いつか、俺じゃないと気づくよ』



今更、そんなこと言われたって、友梨子さんだって困るよな。



『だって…私にはずっと、透くんしかいなかった。私は、透くんみたいに、考えられない』




俺は俯いて、少し微笑んだ。



そうだよな。



そりゃ、そうだ。