「風邪ひきます」
この手を離したくない。
そう思った瞬間、私は会長の手を引いて歩きだしていた。
「未来?」
後ろから焦ったように私の名前を呼ぶ会長を、ぐんぐん引っ張って。
アパートの敷地に入って、階段を上る。
部屋のドアの鍵を開けると、私の名前を呼んだきり黙って私についてきていた会長が、私を見た。
少し細められた目が、私を見つめて。
どうしたんだよ。
そう言っている。
いつもみたいに。
待ってる、私の、素直を。
でも言ってあげない。
絶対に教えてあげない。
「会長、身体冷えてます。あったまっていってください」
会長を見上げると、会長は黙ってしばらく私を見つめて、それからそのまま私の家に入った。


