「…桜田未来」
通る低い声が、私の名前を呼んだ。
怯えたらだめ、隙を見せたらだめ。
そう思って、私は目に力をこめる。
「…君の情報は、ほとんど揃っている」
会長は肘掛けに肘を乗せ、その先から伸びる綺麗な手で頬を支えた。
彼のまっすぐな瞳が、少し細くなる。
「そばに置くのに、申し分ない、と判断した」
…言っている、意味が分からない。
そう言いたいのに言葉にできずに、ついに私は会長を睨んでしまう。
すると会長はにやり、薄い唇を愉快げに歪めて言った。
「挑発的な女は、嫌いじゃないんだ」
試すような瞳に、誘うような声。
「…これは、会長命令だ」
会長命令?
…なにそれ。
「難しいことじゃないから安心しろ」
絶対、安心なんてできない。
続きを聞きたくない。
だけど、彼の一挙手一投足に、目が離せないのはなぜだろう。


