引き止められた会長は嫌な顔ひとつせず、じっと私を見つめて私の言葉を待っている。
綺麗なブラウンの瞳に見つめられると、言葉が詰まる。
私は黙ったまま鞄からハンカチを取りだして、そっと会長の肩を拭いた。
もちろんこんなことで、乾くわけじゃないけど。
せめて、少しでも。
そう思っていると、会長の手が、私の手を掴んで。
「なんなのお前」
射るような目で、見つめられる。
低い声が、身体に響いて。
身動きがとれなくなる。
雨音も、消えたみたいになって。
ゆっくりと、気配が近くなる。
香りが、濃くなる。
ただ静かな世界で、あまりに優しいキスをされていた。