いつか夏、峰雲の君


 あれから僕は色々な場所行った。白い嵐が吹きすさぶ南のアコンカグアに、日が沈まぬ北のマッキンリーに。


 だがどれだけ登っても、夏希はそこにいなかった。キリマンジャロに登ってもアルプスの山々に登っても、エルブルスの峰に立とうが彼女に会えることはないのだ。


 もはやこの世では、彼女を拝むことなど不可能だと感じた。


 だから僕はここに立っている。現世と神域の狭間。すなわち高度8000m、デスゾーン——