いつか夏、峰雲の君

  忘れない、忘れれる訳が無い。彼女は僕の全てだったのだ。


 当たり前の存在。春に桜が散り、夏に海が沸き立つ様に。秋に山が燃え、冬に命が枯れる様に……。青い空の下には必ず雲が寄り添うはずなのだ!


 ……なのに彼女はそこにいない。彼女がいた場所には何も残っていない。虚無、そこには何も……


……君に会いたい、もう一度この青に君を描きたい。今度は消えてしまわないぐらい、はっきりと。


 その感情を僕の心に誓う瞬間、夏希が描かれていた穴に何かが湧き出すのを感じていた。


 暗く冷たく醜くて、それでいてずっしりと重いタールの様な何かが。


その翌月、僕は富士の峰に立っていたのだ——