僕はあの日のことを忘れない。


 稲葉坂の脇に咲く秋桜よりも、重く重く降りしきる時雨よりも、そしてあの時見た狐より、白いあの日を。


 何よりも純粋な彼女を胸に抱いたその瞬間、僕はようやく胸の中に湧いた雲の名を知るのだ。

 青空に咲く峰雲に愛を込めた、あの秋の名は——白秋。