ふと、冷たい風が僕らの脇をすり抜けた。シベリアからの北風。やがて来る冬の寒波に、彼女は肩を凍えさせるのだ。


 僕は体が冷えてはいけないと、そのハンドルを握ろうとする……その時だった。


 ポツリ——冷たい雫が僕の鼻を叩く。またポツリと、夏希のつむじにそれは落ちるのだ。


 僕と彼女が顔を見合わせた瞬間、ザッと層雲がその身を溶かす。その雨の名は時雨——


 僕は焦った、冷たい雨は彼女の体の熱を奪うからだ。


 それがどんな結果を産み出すかは分からないが、僕でも風邪を引くのなら、彼女はもっとよくない何かが起きるのに想像難くない。


 早く雨を避けなければ——! だがこんな山奥に、都合のいい場所などあるはずがなかった。


 だから僕は取った行動といえば、彼女をその胸に抱え……


「ねぇ登吾くん……本当によかったのかな?」


 ……僕は神社の屋代をこじ開け、その中に入っていた。